当時の日本では、格安航空券はあまり認知されておらず、一部の旅行通だけが知る「裏技」的な存在だったので、1980年に設立した「インターナショナルツアーズ」（現H.I.S）を足がかりに、本格的に旅行事業に乗り出し、海外向け格安航空券のニッチに参入した。一般的に航空券は、まず航空会社がホールセラーと呼ばれる主催旅行会社や航空券販売会社に、年間座席数を指定したまとめ売り（団体用航空券のブロック売り）を行う。このホールセラーはまとめて購入することで、一枚当たりのチケットは通常価格より安価に手に入れることができた。創業当時のH.I.Sはホールセラーが手放す航空券を学生を中心とした若者にリーズナブルな価格で販売していた。海外旅行のオフ時は団体旅行が埋まらない残ったチケットを引き受け、定価よりかなり安い価格で販売した。例えば、その時期H.I.S提供のヒット商品は「インドまでの自由旅行」があった。当時日本からインドまでの直行便を利用すると20万円前後かかっていたが、このプランなら東京からタイ・バンコクに飛び、バンコクからインドへ入ることで10万円程度となった。こういう航空会社との提携で、ユーザー、航空会社の双方から信頼を得た。また、『エイビーロード』などの旅行雑誌を通じて大々的に宣伝することで、格安航空券の分野での知名度をあげていた。（注4）

このルール違反の航空券を一気に日の当たる場所に持ち出したところに、その新しさがあった。この団体旅行やツアー用に安く設定された航空券を個人客向けにバラ売りしたことは当時旅行業界の常識や慣習を破り、安価で個人向け航空券の販売の先取りになった。