髪の黒を強調する場合は、日本語で、きれいな黒髪を描写するとき、「烏の濡れ羽色」とういう表現がある。垂髪の場合、理想の髪の色は紫をおびた黒髪や川蝉の羽のような青を持った透明感のある黒や、金泥の漆のような艶やかな黒がいい。
3.2長い髪と「顔隠し」
平安時代の長い髪を伸ばしたのは「顔隠し」ということに関係があるとされている。平安時代は貴族を中心に女性たちは自分の容貌を見せないことが奥ゆかしく、嗜み深く教養があるという美意識があったため、表現を顔に出すのははしたない行為だとされていた。当時の女性像が細めで、喜怒哀楽の中間の表現をしていたのはそういう理由だったようである。それだからこそ、長い髪を伸ばして、自分の顔を隠そうという考えが思われる。
「その結果、女性は自分の容貌を見せないことが奥ゆかしくたしなみ深く、教養があるとされたことになった。言い換えると、垂髪は顔を見せないための最適の髪型だったのである。」と村澤博人の『顔の文化誌』の中にそう書いてある。これは垂髪はその時代の「顔隠しの文化」と関連深いと説明した。平安時代の女性は簾の内で生活しており、夫以外の男性に顔を見せることはなかった。外出時も、市女笠を被り、壺装束して、顔を隠した。これと同じように垂髪は顔を隠す「簾」と「市女笠」の役割をしていたのである。
宇津保の『蔵開上』は「白き綾の御衣を奉りて、耳挟みをして、惑ひおはす」と述べた。その「耳挟み」は女性が額髪を左右の耳の後ろにかきやって挟むことで品のない仕草とされ、嫌われていた。それは「顔隠し」の習慣に背いたのと考えられる。