第二章『風立ちぬ』から見た堀辰雄の死生観
2.1主人公間の死と生と愛
「生」と「死」と「愛」は堀辰雄の文学のテーマである。『風立ちぬ』は「序曲」、「春」、「風立ちぬ」、「冬」、「死のかげの谷」の五章からなっている。
「序曲」の章は詩句から始まり、二人の愛が深まる。「風立ちぬ、いざ生きめやも」という詩句がふと口を衝いて出て来た。「私は私に靠れているお前の肩に手をかけながら、口の裡で繰り返していた。それからやっとお前は私を振りほどいて立ち上って行った。」
「春」の章は二人の生活を描いたが、生にとって「春」は生きる象徴であった。「私」が節子と一緒に療養所で治療を行っていたが、二人の「生」に対する意識はずっと強かった。『「ごめなさい」彼女はとうとう口をきいた。その声はまだ少し顫えを帯びていたが、前よりもずっと落着いていた。「こんなこと気になさらないでね私たち、これから本当に生きられるだけ生きましょうね。」
「風立ちぬ」の章で、節子の病気は当時不治の病であった肺結核であり、環境の良いところで病気治療を行うため、療養所に入り、二人は幸せに生活する。こうして私たちのすこし風変り愛の生活が始まった。「節子は入院以来、安静を命じられて、ずっと寝ついたきりだったかつて私たち幸福をそこに完全に描き出したかとも思えたあの初夏の夕方のそれに似た――」 。
「冬」の章では、「冬」に節子の病状が悪化しつつあり、彼女の命がカウントダウンし始める。『「お前、家へ帰りたいのだろう?」私はついと心に浮んだ最初の言葉を思わず口に出した。そのあとですぐ私は不安そうに節子の目を求めた。彼女は殆んどすげないような目つきで私を見つめ返していたが、急にその目をそらせながら、「ええ、なんだか帰りたくなっちゃったわ」と聞えるか聞えない位の、かすれた声で言った。」
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