そこで本稿では、現存する記録や伝承を考察することによって、鯉に関する日本文化を理解した上で、鯉の文化の特徴を探究する。それによって、日本人と日本文化をもっと深く理解することへの貢献を目指すものである。
1.1 研究の目的と意義
以上で述べたように、鯉は日本人にとって特別な意を持っている魚であり、日本文化において不可欠な一部分でもある。鯉の文化は、日本民族にある程度の影響をもたらしたと言えるのではないだろうか。本論文では、鯉の文化を考察し、鯉のぼりの盛行、鯉の食文化の衰退の両方面から、日本文化における鯉の特徴の一部分を掲示してみたい。
1.2 先行研究
中国では日本の魚文化についての研究は様々なものあるが、鯉の文化についての研究はそれほど多くない。斉斉哈尔大学の黄暁娟氏の「日本鱼名和日本的鱼文化」(「日本の魚名と日本の魚文化」)は、テーマ別に日本の魚の名前及びその読み方を解明しつつ、日本の魚の文化は他の国より豊かであり、魚の文化に視点を置けば、日本語と日本文化を探究することに役立つと指摘している。河北大学の武青氏の「ことわざから見た日本人の国民性の特色——魚に関することわざを中心に」は、魚に関する日本語のことわざを通して、言語文化学などの視点から、日本人の融合性、パターン化、以心伝心、繊細さ及び日本人の海洋性を検討した。厦门厦門理工学院の黄宝珍氏の「谈日本的“鱼文化”」(「日本の魚文化について」)は日本のことわざ、俳句、詩歌、文学作品を紹介した上、魚文化は日本人の生活`751*文+论]文|网\www.751com.cnと文化にどのように影響したかについて追究した。中国における先行研究は魚文化という大きな範囲から日本の言語と文化を中心に考察したものが多い。鯉についての研究はそれほど多くないので、研究する価値があるのではないだろうか。
ほかに、欧米に至っては、鯉についての研究はあるものの、数は少ない。ベルギーの学者ボレー・カロリン氏が鯉に関する伝説や昔話等のような「信じる習慣」だけではなく、「観賞する習慣」や「食べる習慣」が今も残っていること自体、鯉が何らかの特別な意をもっていると論じた。
従って、本論文では日本文化における鯉を課題として、鯉に関する食文化、文学表現、風習などを考察し、日本文化における鯉の特徴を見出すことを目指す。
2.鯉に関して
2.1鯉の名前
2.1.1鯉の学名
鯉の学名は「シプリヌス・カルピオ(Cyprinus carpio)」と言う。シプリヌスとは、愛と多産の神ヴィーナスの生まれ故郷である「サイプラス(エーゲ海のキプロス島)」に由来しているそうである。数十万個の卵を産む鯉は、多産のイメージがあるようであるが、実際は魚の中でも特に多産というわけではないのである。
2.1.2「コイ」の由来
「コイ」と呼ばれるようになった由来については、諸説があり、次はその中の2つの説を紹介する。
1)「恋」由来説
「コイ」は「恋」に由来するとされている。現代の『広辞苑』に相当する、大正から昭和论文网初期にかけての辞書である『大言海』(注1)には「コヒ(コイ)は恋の義」とされている。また、日本初の五十音順国語辞典である『和訓の栞』(わくんのしおり)にも「恋」由来説が書かれており、「景行天皇の条の記述(注2)にその旨見えたり」と記されている。後で紹介する。